肥大型心筋症は、心筋の異常によって心臓の筋肉が異常に肥大する病気です。高血圧や弁膜症といった他の原因がないにもかかわらず、左心室や右心室が肥大します。これにより心臓が血液を受け入れる拡張機能に障害をきたします。肥大の分布は不均一なことが多く、左室よりの血液の出口(流出路)が狭くなる「閉塞性肥大型心筋症」と、そのような狭窄がない「非閉塞性肥大型心筋症」に分類されます。心エコー検査や心臓MRI検査で、肥大の部位や心機能を評価し、Fabry病や心アミロイドーシスなど他の病気との鑑別が必要です。
令和4年度末の医療受給者証所持者数は4,318人ですが、無症状の患者を含めると一般人口の1/500人に及ぶと推測されています。家族性の発症が約半数に認められ、遺伝的要因が関係します。
主な原因は、心筋の収縮に関わるサルコメア蛋白をコードする遺伝子の変化(バリアント)です。家族性肥大型心筋症の約半数にこの遺伝子変異が認められ、遺伝子カウンセリングを受けることが推奨されます。残り半数は原因が不明です。
多くの患者は、無症状かわずかな症状を示すだけのことが多く、検診で心雑音や心電図異常を発見されることがあります。症状が現れる場合は、動悸、めまい、呼吸困難、胸部圧迫感などです。特に閉塞性肥大型心筋症では運動時に十分に血液を送り出せずに失神することがあります。5~10%の患者は左室の収縮機能が低下し、拡張相肥大型心筋症へと進行する場合もあります。
治療では競技性の強い運動を避けることが重要です。薬物療法として、β遮断薬やカルシウム拮抗薬を使用し、心房細動には抗凝固療法を行います。重篤な不整脈には、植込み型除細動器が必要になる場合もあります。左室流出路の狭窄が重い患者には、エタノール注入による焼灼術や筋肉の外科的切除も検討されます。
無症状のまま生涯を全うすることもありますが、突然死や心不全のリスクが伴います。若年者では運動中の突然死、高齢者では心不全や塞栓症が主な死因です。重症の場合には心臓移植が必要になることもあります。定期的な専門医による経過観察が重要です。
突然死を防ぐため、競技性の高い過度な運動は避ける必要があります。心機能が低下している場合、塩分制限が推奨されます。